水面に浮かぶ月
その日のミーティングも、滞りなく終わった。
シンはやっぱり光希の目から見てもおかしなところはなかった。
しかし、優也があそこまで言うのだから、光希もまったく気にならないというわけではなかった。
ミーティングを終え、優也が帰ったのを見計らい、光希はシンに声を掛けた。
テーブルの上に、缶ビールをふたつ置く。
「シンとこうやってゆっくり話すのも久しぶりだよね。どう? 最近」
さりげなく問う光希に対し、シンは苦笑いだった。
「正直、色々ときついですね」
「たとえば?」
「単純に、『promise』にボーイが増えただけでも、ひとりひとりに目が届きにくくなります。5人の管理は大変です。その上、自分の売上も気にしなくちゃいけない」
「うん」
「ほんとに俺にできるのかなとか、不相応なんじゃないかなとか、そういう不安もあったりして」
「………」
「あとはまぁ、プライベートなことなんですけど」
そこで言葉を切り、シンは苦笑いの顔に、さらに影を落とした。
そして、目を伏せ、
「これ、誰にも言ってなかったんですけど。実は、母がまた入院しまして」
「入院?」
「癌が見つかったんです。幸い、まだ初期だったので手術で取り除けたんですけど、これからも放射線治療とかが続くみたいで」
「………」
「世話をするのは俺しかいないし、治療費の工面もしなきゃいけないしで、ほんとはいっぱいいっぱいなんですよ、俺。情けないですよね」
光希は掛けてやる言葉が見つけられなかった。
光希には親がいない。
いや、いるにはいるが、憎しみの対象でしかない。
そんな光希が、母を愛しているのであろうシンに、何を言えばいいというのか。