水面に浮かぶ月
事態が動いたのは、3日後のことだった。
麗美が無断欠勤したのだ。
こんなことは初めてで、怒ったマネージャーが電話したら、麗美は「体調が悪いから当分休ませてほしい」と言ったらしい。
光希が何かしたに違いないと、透子は腹の底でほくそ笑んだ。
その日、透子の仕事の終わりを見計らったように、光希からの電話が鳴った。
「麗美ってやつ、出勤した?」
「してない。体調不良らしいけど」
光希は電話口でクッと笑う。
透子も愉快な気持ちになって聞いた。
「光希、あのおばさんに何をしたの?」
「俺は何も。強いて言うなら、命令して、ビデオカメラをまわしてただけだ」
「……ビデオ?」
光希は何かを思い出したのか、楽しそうに言った。
「『龍神連合』ってチームがあってね。まぁ、俺の知ってるやつらなんだけど。そこの若いのを使って、麗美ってやつをマワさせた」
「レイプしたってこと?」
「あの女、最初はぎゃあぎゃあ騒いでたけど、一発殴ったら大人しくなったから、楽なもんだったよ」
「へぇ」
「誰かに言ったら映像をネットに流すって軽く脅しといたから、サツに垂れ込まれる心配もないし。まぁ、もし仮にサツが動いたとしても、俺にまで辿り着くのはかなりの労力だろうから」
「そう。じゃあ、私のお客に警察関係者がいるから、それとなく言っておくわ。光希が捕まることはない」
「さすが透子」
光希は笑っていた。
透子も笑う。
「ありがとう、光希」
「こんなの易いもんだよ。入店祝いのついでだと思ってくれればいい」