水面に浮かぶ月


透子の予想に反し、あれから、マナミは何もしてこないし、何かしてくる気配もない。

でも、だからこそ、油断できない日々が続いた。


もちろん、店でそれを顔に出すことはしないが、しかし気を張る日々は多大なるストレスとなった。


それに加え、『Club Brilliance』の売上が頭打ちになったのもまた、透子のストレスに輪を掛けた。

店の経営が軌道に乗り、安定した証拠ではあるものの、今まで右肩上がりだった業績が伸び悩めば、何か原因があるのでは――マナミが何かしたのではと、勘繰ってしまう。



「久世くん。私の何がいけないの? 何をすれば、もっと売上に繋がる?」


透子は明らかに焦っていた。

久世はため息混じりに肩をすくめ、



「あなたは何も悪くありません。売上としては十分だと、何度も言っているはずです」

「でも!」

「今は下手なことをするより、この売上を継続させることが大事です。人気の継続した安定こそ、一番、難しいことなんですから」


たしなめるように言われた。



「我慢してください」


『我慢』というなら、今までずっとしてきたはずだ。

それなのに、まだ、耐えろというのか。


透子は歯噛みする思いだった。



「それより、あの、マナミっていう女の件はどうなりました?」

「うるさい!」


金切り声を上げた。

が、はっとした透子は、「ごめんなさい」と唇を噛み締める。


久世は呆れたような顔をしていた。





何かが狂い始めていた。

目に見えない何かが、闇の中から手ぐすねを引いているような気がする。


透子は底知れぬ恐怖を抱くようになった。

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