水面に浮かぶ月
「なら、本題に入るとするが。ひとつ頼みがあるんだけどよぉ」


やっぱりか。

本当に、内藤が来るとろくなことにならない。



「今回は簡単な話だ」


内藤は、光希の返事さえ聞かず、話し出す。



「ある男を拉致ってほしいんだよ。1ヶ月ばかり、監禁しといてくれればいい」


カウンターテーブルの上に、男の写真とプロフィールの書かれた紙を置く内藤。



拉致?

監禁?


そんな暇など、今の光希にはあるはずがない。



「どうした? 光希ちゃんよぉ」


目を細め、煙草を咥えた内藤は、



「いつもの余裕ぶった顔はどこにいった? 『はい、わかりました』って言えよ、おい」


せつかれ、光希はさらに答えに窮した。


内藤の指示に従っておく方が賢明なのは、百も承知だ。

だが、この状況で、動けるはずがない。



「すいませんが、内藤さん。今は」


無理です。

と、光希が言おうとした時だった。


内藤は「あぁ?」と眉を吊り上げ、



「まさか、俺に逆らおうって気じゃあ、ねぇだろう?」

「逆らうだなんて、そんな」

「じゃあ、やるだろう? やってくれるよなぁ?」
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