水面に浮かぶ月
どうあっても、内藤は、光希にノーとは言わせないつもりらしい。

光希は唇を噛み締めた。


今まで下手(したて)に出ていたことがアダとなったのか。



「やらなきゃ、お前、どうなると思う? 死んでも文句は言えねぇぞ」


それが脅しなどではないことはわかっている。


光希は目を伏せた。

それをイエスだと受け取ったらしい内藤は、



「3日やる。それまでにこの男を拉致らなきゃ、その可愛い顔の形が変わるぜ、光希ちゃんよぉ」


クッと笑った内藤は、「じゃあ、頼んだぜ」と言い、『cavalier』を出て行った。

光希は傍にあった椅子を蹴り飛ばす。


しかし、もう、四の五の言って迷っている場合ではなくなった。


光希は携帯を取り出した。

数コールの後、ヨシヒサは「はい」と通話ボタンを押した。



「ヨシヒサ。今すぐ会えないか? どうしても、会って話したいことがあるんだ」

「……『話したいこと』?」

「お前の好きな、『おもしろいこと』を用意してる。どう? また一緒に遊ぼうよ」


光希は焦りが出ないように、努めて冷静に言ったつもりだった。

が、ヨシヒサは、電話口の向こうではっと笑い、



「いい加減にしてくれよ。あんたはまだ俺を利用するつもりか?」

「……何?」

「俺はもううんざりなんだよ。あんたのためになんて動きたくない。その所為であんたがどうなろうと、知ったこっちゃない」


光希は耳を疑った。

ヨシヒサの中に小さく芽生えた疑念は、いつの間にか増長していたらしい。



「俺と手を切るって言いたいのか? ヨシヒサ」

「あぁ。俺はもう二度とあんたとは関わらない。『龍神連合』も辞めてやる。ちょうど、親父が別の街に支店を出すって言ってるし、そっちに行くつもりだ」
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