水面に浮かぶ月
「遅くなってすいませんでした!」


光希はつかつかとシンの元へと歩を進める。

そして、その胸ぐらを掴み上げ、



「今までどこで何をやっていた? 俺が納得できる言い訳をしてみろよ」


だが、シンは、バツが悪そうな顔で目を逸らすだけ。


答えるつもりはないということか。

どいつもこいつも、ふざけやがって。



「答えないなら、お前はクビだ。時間も守れず、遅刻した理由さえ言わないやつなんて、俺はいらない」


目を見開くシン。

口を挟んだのは優也だった。



「ちょっと待ってください、光希さん! 15分遅れただけで、何もクビってことは」

「客の前でもそうやって言えるのか? これは信用問題だよ。俺は、信用できないやつに大事な仕事を任せることはできない」


優也は何も言えなくなったのか、唇を噛み締めた。



その時だった。

ガシャーン、と、下で何かが割れる音が響いた。


驚いた光希は、急いで事務所を出て階段を降りる。



「な……」


『cavalier』の裏口にある明かり取りの窓から、石が投げ込まれていた。



人の背丈より高い位置にある窓なので、誰かが侵入目的で割ったわけではないだろう。

と、するならば、やはりこれは、岡嶋組の――内藤の仕業に違いない。


内藤は、いつまで経っても動かない光希に業を煮やし、最終警告をしたのだ。
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