水面に浮かぶ月
「じゃあ、私は、光希にどんなお礼をすればいい?」

「そんなの必要ないよ」

「でも、光希は私に、してくれるばかりじゃない」

「俺が困った時にはちゃんと言うから」

「わかった」


会いたいと、強く思った。

でも、易々とは会えないことはわかっているから。



「ねぇ、光希。覚えてる? 昔もこんなことがあったわよね」

「中学の時のこと?」

「そう。施設育ちだって私を馬鹿にしてた子たちを、光希は、次々と夜道で襲って」

「あれは、あいつらが悪かったんだ。それに、ばれなかったんだから、何の問題もないじゃない」


私たちは悪くない。

悪いのは、親であり、社会なのだ。


だから、当然のことをしたまでだ。



それがふたりの考え方。



「透子を傷つけたってことは、俺を傷つけたってことでもあるんだから。そんなやつらは死ねばいい。そうだろう? 透子」


はっきりと、光希は言う。



透子は空を仰いだ。


おぼろ月が、夜の闇にぽっかりと浮かんでいる。

こんなにはっきりと見えているのに、手を伸ばしても、それには決して届くことはないのだから。



「ごめん、キャッチだ。また電話するよ。じゃあ、仕事、頑張ってね」

「ありがとう」


電話が切れた。



私たちがすべてを手にするための、今は我慢の時期だ。

透子は拳を作り、必死で自分に言い聞かせた。


いつか、光希とふたりで幸せになるために。

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