水面に浮かぶ月

喪失と錯乱



あれ以来、初めて、光希からの電話が鳴った。

透子は飛び付くように通話ボタンを押した。



「光希!」


だが、電話口の向こうの空気は重い。



「透子。大事なことを言うよ。ちゃんと聞いてね」


光希はゆっくりと言葉を紡ぐ。

透子は何事なのかと身構えた。



「しばらく会えないと思う。連絡もできない」

「……どういうこと?」

「詳しいことは言えない。でも、とにかく、そういうことだから」


言い捨てるように電話を切ろうとする光希。



「ちょっと待ってよ!」


透子は困惑の中で声を上げた。

何が何だかわからなかった。



「そんなの、納得できない! わけがわからない! ちゃんと説明してよ!」


悲痛に言う透子。

しかし、電話口の向こうは沈黙したままで。



「光希、私のことが嫌いになった? もういらない? 光希まで私を捨てるの?」

「違うよ。そうじゃない」

「なら、どうしてよ! 落ち着いたら一緒に暮らすって約束したじゃない! 私がマナミのことを頼んだから? 私が我が儘を言ったから?!」


透子はパニックに陥っていた。



光希にまで捨てられたら生きてはいけない。

私にはもう光希しかいないのに。


声は、次第に涙混じりになっていく。
< 133 / 186 >

この作品をシェア

pagetop