水面に浮かぶ月
「お願い、光希。私をひとりにしないで。捨てないで」


縋るように懇願する。

光希はやっと重い口を開いたが、



「透子のことを嫌いになったわけじゃない。愛してるよ。でも、わかってほしい。それがお互いのためなんだ」


頑として理由を言おうとはしてくれない。

だから、透子だって納得できるわけもない。



「私たちは、ふたりでひとりでしょう? 『結婚しよう』って、光希、言ったじゃない。なのに、どうして」


どうして、どうして、どうして。

透子の中にはそれしかなかった。


ため息を吐いた光希は、



「議論したくて電話をしたんじゃない。透子がそれをどう思おうとも、俺は決めたことを曲げるつもりはない」

「……そん、な……」

「あまり長く話している時間はないんだ。もう切るから」


光希はそう言って、一方的に電話を切ってしまった。

透子は慌ててリダイヤルするが、すでに電源は切られてしまっていた。


茫然とする。


『愛してる』と言いながら、まるでもう二度と会うつもりはないとでも言いたげな口ぶりだった光希。

今、何が起きているのか、まったく理解できなくて。



真っ暗な部屋の中で、ひとり、母を待ち続けていた頃と重なる。



光さえ届かない、そこは洞窟のようで。

涙が涸れ、声も出せなくなって。


光希という半身を失った透子は、ついには自分自身を保てなくなった。

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