水面に浮かぶ月
インターネットの掲示板や口コミサイトなどに、『Club Brilliance』の――透子の誹謗中傷が書き込まれるようになったのは、その頃からだった。
もちろん、そのすべては根も葉もないことだし、『Club Brilliance』に来る客はそんな低俗なものなど見ないだろう。
が、いつしかそれは、噂となり、街中に広がった。
犯人は、マナミかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
しかし、こうなってしまった以上、誰がやったことであろうと、もう関係なかった。
「先月から3割の売上減です」
久世は冷静に言う。
「やはり、風評被害でしょうかね。こんなご時世ですし、お客さまも店選びには慎重になるんでしょう」
たとえ、どんな噂が出ようとも、昔馴染みの客は、透子の人柄を知っているはずだ。
それでも、そんな客でさえ来なくなるということは、つまりは透子自身の求心力が低下しているということに他ならない。
透子はあれ以来、いつも心ここにあらずだった。
「早々に、何か手を打つべきだと思いますが」
「放っておけばいいじゃない。焦って否定したら、それこそ真実だと思われるわ。いつも通りにしていたら、そのうちお客さまだって戻ってきてくれるわよ」
それは本心だった。
けれど、反面では、もうどうだっていいという気持ちもあった。
光希と生きるために構えた城なのに、なのに当の光希がいなくなってしまったら、もう何の意味があってこんなことをやっているのかわからない。
「それに、私、昔はいじめられっ子だったの。だから、こんなの慣れてるし」
親がいない。
施設に入っている。
そういう好奇の目に晒されて生きてきた透子にとっては、後ろ指を差される程度のことは、痛くも痒くもないのだ。
光希がいなくなってしまったことに比べたら、すべてはつまらないことでしかない。
透子は乾いた笑いを浮かべた。