水面に浮かぶ月
「苦しいか? 苦しいよなぁ? でも、俺はその何百倍も苦しんだんだぜ?」


顔を歪める透子を見て、リョウはいたずらにその手の力を抜いた。


ごほごほと咳き込む。

生理的な涙をこぼしながら、透子はその場に倒れ込んで肩で息をする。



「けどよ、改めて考えてみたら、お前らは共通点だらけだった」


リョウは、「聞いてんのかよ」と、透子の髪の毛を鷲掴んで、頭を持ち上げさせた。



「同じ口調。同じ香水。財布も、キーケースも、時計も、サングラスも、同じ。イニシャルのアクセにルビーがついてんのも、白いバラが好きなのも、同じだ」

「………」

「見ず知らずの他人同士の趣味がここまで一致するはずはねぇ。と、するならば、お前らは、俺が思ってる以上の繋がりってことだ」


近い距離で見据えられる。

リョウの、今にも殴りかかってきそうな剣幕に、透子の震えは大きくなる一方で。



「俺の部屋が荒らされ、金とクスリが奪われたのは、岡嶋組の仕業だろうと思ってた」

「………」

「けど、ほんとにそうか? あれはお前らが共謀してやったことだと思う方が、俺には色々としっくりくるんだよ」


無理やり、頭を揺さぶられた。

強い衝撃に脳が振られ、吐き気がする。



「光希は、最初から、計画性を持って、俺を潰すために透子を俺に近付けた。それにまんまと引っ掛かった俺は、透子に合鍵まで渡しちまった」


すべてを知られてしまった。


私は殺されるのだろうか。

光希は、どうなるのだろう。



「でもよ、光希も残酷だよなぁ? 自分の女を、憎んでる男に差し出すなんて。お前も光希に利用されてるクチか?」


違う。

光希は私を愛してくれている。


と、言いたい言葉は、もちろん言えるわけもない。
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