水面に浮かぶ月
狂気の果て
『cavalier』も『promise』も、今や、営業できる状態になかった。
しかし、無関係のボーイたちに危険が及ぶことを考えれば、店を閉めているのは正しい判断なのだと、光希は自分に言い聞かす。
何より心配なのは、透子のことだ。
俺との関係を、今、誰かに――岡嶋組にだけは知られてはならない。
そんな思いで連絡を絶ったのに。
なのに、「『Club Brilliance』の透子ママが飛んだらしい」という噂を聞いたのは、昨日のこと。
あの透子が、本当に店を捨てたのか?
だったらいいが、もしも、何かに巻き込まれていたら。
光希は気が気ではなかったが、だからって、透子を探すために動けば、余計、状況が悪くなることは、想像に易い。
これが岡嶋組の仕業なら、相手の思う壺になるし、そうじゃなかった場合、その所為で岡嶋組に知られることとなるからだ。
だからこそ、動けない。
透子が今、どこでどうしているか――無事かどうかさえわからないなんて。
「透子……」
透子、透子、透子。
最悪の想像さえ頭をもたげ、その度に、光希は発狂しそうだった。
俺はこんなことのために透子と生きてきたわけではないのに、と。
右手の中指の指輪に触れる。
重く、冷たい感触が、光希の不安をいっそう掻き立てて。
「……生きててくれ」
光希は祈るような気持ちだった。