水面に浮かぶ月
鉄製の階段を、三階までのぼる。

ふたりの足音が夜の闇に冷たく響く。


最初の異変に気付いたのは、鍵が開いていたことでだった。



「……何、で……」


光希と優也は驚きに顔を見合わせる。



光希は今日の昼には一度ここを訪れていて、もちろんその時に鍵は掛けた。

それが、開いているのだ。


急いでドアを開け、入口のすぐ横にある電気をつけてみたら、



「なっ」


事務所は見事に荒らされていた。


金庫の扉も開いている。

駆け寄って中身を確認したが、現金と通帳、それに重要書類が消えていた。



デスクの上に置いていたパソコンも持ち去られている。



「やられた」


個人的なものは置いていなかったにしても、『cavalier』と『promise』に関するすべてのものを失った。



「金庫の鍵は本棚の奥に隠していた。普通は誰もそんなところは見ない。それを知ってるのは、俺と優也とシンだけだ」

「やっぱりこれは、シンがやったということでしょうか」


優也は苦い顔で言った。

光希は顎先だけでうなづく。



「だろうな。金目当てなのか、それとももっと別の何かがあったのかはわからないが、十中八九、シンの仕業に間違いはないだろう」

「警察には?」
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