水面に浮かぶ月
優也は力なく言った。


優也だって、親友のシンがやったことだとは、最後まで思いたくなかったのだろう。

けれど、それは悲しいかな、如実になるばかりだ。



「俺だって、できることなら他に犯人がいてくれたらなって思うよ。シンじゃなかったらな、って。でも、わかってるだろう? 優也。これが現実さ」

「……はい」


顔を覆う優也。

光希はその肩に手を置く。



「悩んでる時間はない。わざわざ優也に電話を掛けたことから考えても、シンも次の動きを考えているはずだ」


この街を出るつもりなのか、それとも死ぬつもりなのか。

どちらにしろ、早く見つけなければ、取り返しのつかないことになるかもしれない。


光希が携帯を取り出した時だった。


ガタッ、と、『cavalier』のバックルームから、大きな物音がした。

ふたりはびくりとし、顔を見合わせる。



「何? 今の」

「わかりません」


『cavalier』のカウンターの奥の扉の向こうに、多分、何かが――誰かがいる。

光希は生唾を飲み、



「優也は隠れてて。俺が見てくるから。何かあったら、すぐに逃げるんだ」


優也は、出入り口のドアの近くにある、ソファの裏に身を潜ませた。

優也が隠れたのを確認し、光希は足音を立てないようにカウンターに入り、ゆっくりと、そのドアを開けた。


暗がりの中、空き瓶の詰まれた奥に、目を凝らす。



「誰だ?」


人の足。

光希がそろりと近付くと、
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