水面に浮かぶ月
「くはっ」


血まみれで、顔の判別さえつかないほどに暴行を受けたのであろう、シンが、浅く何度も呼吸を繰り返している。



「シン?!」


光希は慌ててシンの体を起こした。

血と、油の匂いが、強烈に鼻をつく。



「……希、さん……すい……せん……」

「シン! おい、シン!」


誰が、どうしてこんなことを。

しかし、今は聞ける状態ではない。



「……光希……ん……っ、……俺……」

「もういい。喋るな」


光希は制するが、それでもシンは精一杯の力を振り絞るように、肩で息をしながら、



「……早く……逃げ……あいつがっ、……光……さん……」


『あいつ』?

思わず問い返そうとした時、ミシリ、と、背後から床の軋む音がした。


振り向くと、優也がそこに佇んでいた。


優也はこの状況を、目を丸くして見ていた。

いいところに来てくれたなと、光希は思った。



「優也! 救急車だ! 早く!」


けれど、優也はそこから動こうとはしない。



「何やってんだよ! シンが死んでもいいのか!」


光希は焦って言った。

しかし、動いたのは、光希の腕の中にいるシンだった。



「うわぁあああああ!」
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