水面に浮かぶ月
「俺を本気で親友だと思い込んでるシンを騙すのは簡単だった。金を渡し、少し身を潜ませておけと言ったら、本当にそのまま動いてくれた」

「………」

「光希さんはその間、シンを疑った。挙句、今日のこの出来事だ。あんたはまんまと俺の言葉通り、シンがやったことだと思い込んだ」

「………」

「シンは今頃、内藤が消してるはずだった。まさか、逃げ出してるとは思いもしなかったけど、こんなところに隠れてるなんて、俺に見つかるとか考えないかなぁ?」


と、いうことは、今日、シンから電話があったというのも、嘘だろう。


嵌められた。

光希は舌打ちする。



「ヨシヒサって野郎もそうだ。俺がちょっとつついたら、すぐに飛んじまった。どいつもこいつも、馬鹿ばっかだ」

「お前……」


何から何まで。

そうとも知らず、俺はこいつの手の平の上で踊らされていたわけか。



「学もないくせに、偉そうにするなよ。あんたみたいなやつに命令されてて、俺がどれだけ気分が悪かったかわからないだろ?」

「………」

「あんたはちょっと顔がいいだけで、所詮はただの、排水溝から出てきたような、薄汚いドブ鼠でしかないくせに」

「………」

「あんたの女だってそうさ。今頃、ドブ鼠らしい死に方で死んでるはずだ」


やはり、透子にまで。

光希はひどく動揺したが、でも努めてそれを顔には出さず、



「言いたいことはそれだけ?」


優也を挑発するように睨んだ。


状況が不利な以上、下手なことはできない。

だから光希は、優也の出方をうかがうように、



「これからどうするつもり? 俺とシンを殺す?」

「今ここであんたとシンを殺すのは、得策じゃない。真っ先に疑われるのは俺だからな」

「でも、今ここで俺たちを殺しておかないと、後々、面倒なことになると思うけど」
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