水面に浮かぶ月
「うるさいんだよ!」


優也は声を上げる。



「そうやって、俺を誘導できると思うなよ。あんたの手の内なんてお見通しだ」


やはり、優也は一筋縄ではいかないらしい。



動けないシンを抱えているため、光希も動きが取れない。


俺ひとりなら、どうにかなるかもしれない。

すぐ横には裏口のドアがあるが、でも、シンを犠牲にして自分だけ逃げるような人間にだけはなれなかった。



「今、俺を殺しておかないと、後悔するよ、優也」

「挑発するなって言っただろ!」

「内藤は、お前が考えているようなやつじゃない。俺と同じで、お前も利用されているだけさ」

「黙れ!」


ガシャーン。

傍にあった空き瓶を叩き付けた優也は、



「あんたの言葉には騙されない!」


余裕を失っている証拠だ。


どんな状況であろうとも、修羅場の場数は光希の方が上だ。

ドブ鼠だろうと、窮鼠は猫を噛むんだよ。



「どうした? 優也。手が震えてるよ。さんざん、馬鹿にしておいて、ほんとは俺が怖いだけなんじゃないの?」


優也は唇を噛み締める。


その時、鳴ったのは、優也の携帯だった。

ディスプレイを確認した優也は、すぐに通話ボタンを押し、



「はい。はい。わかりました。すぐにそちらに向かいます」


電話を切った優也は、再び、光希を睨みつけた。
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