水面に浮かぶ月
「命拾いしたな」


電話の相手は内藤だったのだろうか。

言いながらも、優也の顔は少し余裕が戻ったようだった。



「どうせすぐに、あんたもシンも、岡嶋組が殺してくれる。それまで、せいぜい、命を繋いでおくことだな」


言い捨て、優也はその場を去った。


光希はひとまず安堵する。

この場を脱しさえすれば、まだどうにかなるからだ。



「大丈夫? シン」

「……光希、さ……、すいません……した……」


シンは泣いていた。

光希は「気にしなくていい」と首を振り、携帯を取り出した。


119番をし、この場所とシンの容体を手短に伝える。



「もう大丈夫だから。あとは俺に任せて」


少なくとも、病院にいる方が、シンには危険は少ないだろうから。




5分ほど待っていると、サイレンの音が聞こえてきた。



光希は外に出て、救急車を誘導する。

救急隊員に状況を説明すると、シンはストレッチャーに乗せられた。


救急隊員に「乗りますか?」と聞かれたが、光希はそれを断った。



「俺もすぐに行くから。死んじゃダメだよ、シン」


ドアが閉められ、サイレンを夜の闇に響かせながら走り出す、救急車。

光希はシンを乗せたその赤いテールランプを見送った。


光希の携帯が鳴ったのは、その時だった。
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