水面に浮かぶ月
ディスプレイには知らない番号が表示されている。

光希は息を吐いて通話ボタンを押した。



「誰だ? 内藤か?」

「内藤じゃねぇよ。俺だ、俺」


まさかと思った。

そんなはずはない、と。



「俺だよ。リョウだ」


光希は目を見開く。


どうしてリョウが、しかもこんな時に。

嫌な予感が極限に達する。



「何の用? お前に構ってる暇はないんだ」

「そうか、そうか。じゃあ、死んでもいいんだな? てめぇの女」


ふと脳裏をよぎった、透子の顔。



「……まさか、お前が……」

「そうさ。そのまさかだよ。透子は預かった。殺してほしくなきゃ、俺の指示に従え」


しかし、それはつまり、透子はまだ生きているということでもある。


まさかリョウがあの時のことを知っていて、しかも内藤の側に加担しているとは、思いもしなかったけれど。

行くしかない。



「わかった。場所は? 透子に何かしたら、俺はお前を死んでも許さない」

「やれるもんならやってみな」


リョウは吐き捨てた。

優也なんかとは比べものにならないほど、余裕ぶった言い方のリョウ。


場所を聞き、電話を切る。


光希はそのまま走った。

透子だけは失うわけにはいかないから。

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