水面に浮かぶ月


リョウが指定したのは、少し前に潰れたライブハウスだった。


深夜のこの時間に、人通りはない。

光希は覚悟を決め、地下へと続く階段を降りた。



ドアを開けると、壁に沿うようにテーブルと椅子が積み上げられている。



「遅ぇんだよ、クズ野郎」


一段高くなったステージの上。

その中央に、後ろ手に手を縛られた透子と、そんな透子にナイフの刃を向けているリョウが。



「おっと、動くなよ。少しでも変なことをすれば、この女の喉元を掻っ切るぜ」


リョウはぺろりと唇を舐めた。



「透子!」


顔には殴られた痕があり、服は乱されている透子。

透子は光希を見ない。



「透子に何をした!」

「俺を騙してた罪で、肉便器になってもらってただけさ。抵抗ばっかするから、こんなに殴る羽目になっちまったけど。俺だってこの顔は、なるべくならそのままにしときたかったのに」


透子は唇を噛み締め、体を震わせていた。


殴られて、無理やりヤラれて。

想像しただけで、あまりのむごさに光希は吐きそうになった。



リョウはクッと笑う。



「でもよ、馬鹿だよなぁ、光希は。この女は、何をされようとも、かたくなにお前との繋がりは認めなかった」

「なっ」

「なのに、当のお前は、ほいほいこんなところまで来ちまって。これじゃあ、透子の努力も水の泡だ」
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