水面に浮かぶ月
「透子……」


どうして俺のためにそこまでする?

殴られてまで、俺なんかを守ることなんてないのに。


それでも透子は、



「私はこんな人、知らないって言ってるでしょ!」


わめいた瞬間、リョウはナイフの柄で透子を殴った。

ガッ、という鈍い音と共に、床に倒れる透子。


透子のこめかみは切れ、血が出ていた。



「もういいよ、透子。もう、何も言わなくていいから」


透子はうずくまったまま、泣いていた。

それはきっと、痛みからではなく、悔しさからだったのだろう。



「ごめんな、透子。こんなことになってしまったのは、俺の責任だ」

「そうさ。お前の責任だよ、すべて」


リョウはこちらにナイフを向け、ステージを降りると、光希と対峙した。



「よくもあの時、俺を騙してくれたなぁ。あれから俺がどんな日々を強いられたか、お前にはわかんねぇだろ?」

「わかるわけがない。騙される方が悪いんだ」


リョウが透子から離れた今は、チャンスだ。

光希は、リョウの注意を自分に向けさせるために、わざと挑発するようなことを言う。


だが、リョウの顔色は変わらない。



「そうだな。確かに、騙される方が悪ぃよ。でも、ありがたいことに、この世には敗者復活戦ってもんがある。俺はまたこの舞台に戻ってきたんだ。優也のおかげだよ」

「その優也は、内藤と繋がっているんだぞ。あの時、お前をこの街から消せと俺に指示したのは、内藤だ。内藤は、またお前を利用したいだけなんだよ。どうしてそんなことに気付かない?」

「気付いてて、それでもこの計画に乗ったんだよ、俺は。てめぇと透子を殺した後、内藤も殺す。それで俺の恨みはすべて晴れるからな」
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