水面に浮かぶ月
リョウは本気だ。

歪んだ目が、それを物語っている。


真っ直ぐに向けられた、ナイフの切っ先。



「どのみち、俺はもう、クスリの件で全国に手配されちまってる。失うもんなんか何もねぇからな」


リョウは吐き捨てた。



「失うものが何もない人間より、守るものがある人間の方が強いっていうだろう? リョウ」


これは俺が撒いた種。

だから、俺はどうなってもいい。


透子さえ守れるなら、俺は、



「俺は、リョウと刺し違えてでも、透子を守るよ。それで死ぬなら本望さ」

「かっこいいねぇ、元ホストは。じゃあ、お望み通り、殺してやるよ。泣いて命乞いしても、もう遅ぇからな」


刹那、リョウはナイフを振り上げた。



「あの世で後悔しな」


シュッ、と、それは空を切る。

光希は辛うじて避けたが、リョウはにやりとした。



「ビビってんのか? 逃げてんじゃねぇよ」


それが挑発であることはわかっている。



「リョウの方こそ、腰が引けてる。俺を刺すの、ほんとは怖いんじゃない?」

「誰が」


シュッ、シュッ、と、大振りでナイフを振りまわすリョウ。

光希はついに、壁際まで追い詰められた。


リョウが再びナイフを振り上げ、これまでかと思われた、その時、
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