水面に浮かぶ月
「逃げて、光希!」


透子の叫びに、一瞬、リョウの気が削がれた。

これをチャンスとばかりに、光希は傍に積み上げられていた椅子を、リョウに叩き付ける。


代わりに、光希の左腕が縦に裂かれたが、



「ぐあっ!」


衝撃に、倒れ込んだのはリョウだった。



「形勢逆転だな、リョウ」


光希は、リョウの体に馬乗り、顔面に拳を叩き付ける。

ガッ、ガッ、と、鈍い音と共に飛ぶ、血しぶき。


光希だって、ダテにこの街で生きてきたわけではないのだ。


しばらくの後、リョウがぐったりと動かなくなったのを確認した光希は、肩で息をしながら、リョウの体から降りた。

血がだらだらと出ている自らの左腕など気にすることもなく、光希は透子のいるステージに向かう。



「大丈夫? 透子。起きられる?」


光希は透子の手にあるロープをほどいた。



「光希。私……」

「生きてるだけでいい。逃げよう、ふたりで。ふたりでなら、命さえあれば、後はどうにでもなるさ」


どうにか透子を立ち上がらせた。



光希は息が上がっている。

左腕の痛みの所為で、気を抜けば、意識が飛びそうで。


でも、ここで倒れるわけにはいかないという精神力だけで、光希も無理をして立ち上がった。



「……光希?」


ボタボタッ、と、血が落ちる。
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