水面に浮かぶ月
脳裏をよぎる、幼少期の地獄。
これが走馬灯というやつなのだろうか。
しかし、光希は、地獄にさえ嫌われた男なのだ。
「大丈夫。俺は悪運だけは強いんだ」
「行こう」と、透子の手を引いた。
だが、ステージを降りた時、
「待てよ、てめぇら。俺から逃げられると思うなよ」
リョウはよろよろと体を起こした。
その手には、しっかりとナイフが握られている。
リョウは、苦悶の表情を隠せなくなった光希を見て取り、
「いいザマだぜ。俺と刺し違えてもいいって、さっき言ってたなぁ? 馬鹿を言うな。てめぇは、俺を殺すことも、透子を守ることもできずに、死ぬんだよ」
よたよたと駆け出すリョウ。
腕の痛みで立っていることすらやっとの光希は、もう動けない。
これまでかと思った瞬間、
「光希!」
前に出た透子の影が、リョウと重なった。
一瞬だったのか、それとも何十秒も経ってからだったのか、ゆっくりと、膝をついて倒れる透子。
リョウの持つナイフは、手ごと、真っ赤に染まっていた。
「……透子?」
血に染まった透子の服は、もう何色だったかわかない。
薄目を開けている透子の目の淵から、涙の一筋が伝った。
「透子! おい、透子! 死んじゃダメだ! 透子!」
光希は声がかすれるほど叫んだ。
リョウは真っ赤に染まったナイフを握ったまま、そんなふたりを見降ろしている。
これが走馬灯というやつなのだろうか。
しかし、光希は、地獄にさえ嫌われた男なのだ。
「大丈夫。俺は悪運だけは強いんだ」
「行こう」と、透子の手を引いた。
だが、ステージを降りた時、
「待てよ、てめぇら。俺から逃げられると思うなよ」
リョウはよろよろと体を起こした。
その手には、しっかりとナイフが握られている。
リョウは、苦悶の表情を隠せなくなった光希を見て取り、
「いいザマだぜ。俺と刺し違えてもいいって、さっき言ってたなぁ? 馬鹿を言うな。てめぇは、俺を殺すことも、透子を守ることもできずに、死ぬんだよ」
よたよたと駆け出すリョウ。
腕の痛みで立っていることすらやっとの光希は、もう動けない。
これまでかと思った瞬間、
「光希!」
前に出た透子の影が、リョウと重なった。
一瞬だったのか、それとも何十秒も経ってからだったのか、ゆっくりと、膝をついて倒れる透子。
リョウの持つナイフは、手ごと、真っ赤に染まっていた。
「……透子?」
血に染まった透子の服は、もう何色だったかわかない。
薄目を開けている透子の目の淵から、涙の一筋が伝った。
「透子! おい、透子! 死んじゃダメだ! 透子!」
光希は声がかすれるほど叫んだ。
リョウは真っ赤に染まったナイフを握ったまま、そんなふたりを見降ろしている。