水面に浮かぶ月
ママの協力もあり、透子は無事にノルマを達成できた。
最初は不安もなかったわけではないが、今はそれもどこへやら。
もらった札束の分だけ、自信に繋がった。
「すごいわね、透子ちゃん。そのうち、私も追い抜かれちゃうんだろうなぁ」
『club S』でナンバーワンの売上を誇るマナミが笑う。
「そんな。たまたまですよ。私なんて、まだまだマナミさんの足元にも及びませんし。それに、私、マナミさんには教えていただきたいことが山ほどあるんですから」
「あら、いつでも頼ってちょうだいね。私も透子ちゃんを妹のように思っているのよ」
透子の謙遜に気をよくしたらしいマナミは、まんざらでもない様子だった。
味方は多い方が好都合だ。
それがマナミならば、尚のこと。
「そうだ。今度一緒に、ネイルサロンに行かない? 私の通ってるところなんだけど、とっても素敵なお店なの」
「よろしいんですか? でしたら、ぜひ、私の方がお願いしたいくらいですわ」
孤児として育った透子にとってみれば、人の懐に入り込むことは慣れたものだった。
嫌われないための処世術は、いつの間にか、生きるための手段に変わっていた。
「私、マナミさんに憧れてこのお店を選んだんです。だから、今、すごく嬉しくて」
「まぁ、本当に?」
「本当です。私もマナミさんのようになりたくて」
透子は頬を赤らめながら、心にもないことを言う。
早く帰りたい。
内心ではそう思いながら、
「マナミさんは私の憧れですもの」
何もかもが順調に運んでいることに確かな手ごたえを感じ、透子は笑いを漏らしてしまいそうだった。