水面に浮かぶ月
見舞いと言っていいのかどうなのか、医師や看護師以外が部屋のドアをノックしたのは、あれから数日経った、それが初めてのことだった。
「どうも」
不機嫌な顔をした、久世。
久世は光希の存在に気付くと、あからさまに舌打ちした。
それでも、久世は光希の存在だけを無視してベッド際まで近付いてきて、
「あなたはほんとに話題の尽きない人だ。おかげでこっちはいい恥ですよ。呆れるのを通り越して、もう言葉も出ません」
言葉が出ないというわりには、久世はずけずけと毒を吐く。
「いきなり消息不明になって、飛んだのかと思いきや、拉致されてた? で、男を庇って代わりに刺された?」
「………」
「しかも、何です? 相手は『Kingdom』の伝説? ご大層な言われようでも、ただのマクラでのし上がっただけの、元ホストじゃないですか。くだらない」
「………」
「あなたがそんな人だとは思いもしなかった。いよいよもって、僕もあなたには愛想が尽きましたよ」
一気に言われ、透子はちょっと驚いた。
久世がこんなにも毒舌で早口だとは思わなかったからだ。
間を置いて、透子は思わず笑ってしまう。
光希は怪訝に眉根を寄せ、
「何? 今のは喧嘩を売られたように聞こえたけど。違うの?」
だが、久世は、それでも光希の存在だけを無視する。
久世は、真っ直ぐに透子の目を見て、
「辞めさせていただきます。今日はそれを言うために来ました」
透子はうなづく。
「今までありがとう、久世くん。あなたがいてくれてよかった。たくさん迷惑を掛けてごめんなさい」