水面に浮かぶ月
透子は光希をたしなめた。

透子の言葉に、光希は不機嫌に肩をすくめ、



「ほんとムカつく」


今度は安直に言って、口を尖らせる。

透子は困ったように笑った。



「拗ねてるの? 珍しいわね」

「そうじゃないけど」


そこで言葉を切った光希は、



「俺にもあんなやつがいてたらな、って。そしたら、俺も、少しは本音を出し合えたかもしれないのに、って」


光希の言わんとしていることがわかり、透子は言葉が出なくなった。



『cavalier』を任せていた優也と、『promise』を任せていたシン。

こうなってしまった説明は聞いたけれど、でも、透子はあれからどうなったのか、何も知らされてはいないままで。


きっと、光希は光希なりに、心の内で、自分を責めているに違いない。



「後悔したって遅いのにね。優也とも、シンとも、ヨシヒサとも、リョウとも。ちゃんと本音で話せてたら、もっと違う形になれてたかもしれない」


光希の所為じゃない。

とは、言えない。


それでも、抱えるなら、ふたりでだ。



「光希には私がいるわ。だから、大丈夫」


大丈夫だと、透子は自分にも言い聞かせるように言った。

光希は表情を崩し、また肩をすくめて、苦笑いだけを向けてきた。

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