水面に浮かぶ月
誰もが金や権力に支配され、我を失い、結果として、自らの身を滅ぼすこととなった。


誰の中にも悪魔が住み着いている。

それを呼び覚ましたのは、この街の欲望なのか、それとも――。



「それから、加藤 亮司のことですが」


谷垣は淡々と言う。


リョウは、クスリの件とは別に、透子への拉致監禁、それから殺人未遂や銃刀法違反など、色々な罪に問われているらしい。

そのことについて、透子にも話を聞きたいという旨だった。



「リョウは……」


透子は喉の奥から声を絞り出した。



「リョウは私に何もしていません。私が自分でリョウに着いて行ったんです。私はリョウに刺されていません。私が、自分で自分を刺したんです」


殴られた。

押さえ付けられて、無理やり犯された。


思い出しただけでもぞわりと鳥肌が立ち、嫌な汗が背中を伝う。


しかし、そうなってしまった原因は、少なからず、透子にもあるのだ。

私が初めにリョウを騙したから。



けれども、若い方の、石原と名乗った刑事は、正義感に熱かった。



「加藤は罪人だ」、「庇ってもきみに特はない」、「犯した罪は償わせなければならない」、「反省させなければならないんだ」、「きみの話は、その場しのぎの同情だ」、「加藤のためにはならないぞ」と、噛み付く勢いだった。

同情と言われるなら、そうなのかもしれないけれど。


リョウをリョウとして、そこに愛しさを感じていた、あの頃の自分を想う。


それは多分、私たちが似た者同士だったから。

許さないと言ったリョウを、私は――私だけは、許してあげたい。



それは自己満足でしかなく、身勝手なだけのことなのかもしれないけれど。
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