水面に浮かぶ月
透子はそのハサミながらも、器用にバラの茎を1本1本、切っていった。

どうして茎をナナメに切るのか聞きたかったが、あまりの手際のよさに、シンはしばらくそれに見入ってしまった。


透子の手によって、花瓶のバラは、より形を綺麗に、美しくそこに納まった。


すごいと思った。

そして、光希がしていたのと同じだなとも。



「花瓶、もうひとつある?」

「あ、はい。裏に。ちょっと待っててください」


慌てて取りに行って、透子に渡した。

透子はそこにも同じように、自分が持ってきたバラを咲き誇らせた。


やっぱりすごい。



「あの」


確信に近いものが込み上げてきて、シンは喉の奥から声を出した。



「白いバラ。光希さん、いつも事務所とかに飾ってました。俺はてっきり、光希さんの好きな花なんだと思ってたんですけど」

「そうねぇ。まぁ、光希も好きではあると思うけど」


透子は曖昧に濁すだけ。


しかし、シンは、やはりそうだと思った。

光希と透子の関係は、つい最近のものではないないはずだ、と。



「14年前にね。あ、もうすぐ15年かな。7月7日に出会ったの、私たち。光希と私の7歳の誕生日に、児童福祉施設でね。白いバラは、初めて会った日に、私が光希にあげたものなの」

「え? ……えぇ?!」


シンは仰け反った。


つい最近ではないだろうとは思ったが、そんなに前からだったなんて。

っていうか、『児童福祉施設』って。



シンの反応に、透子はまたくすりと笑い、
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