水面に浮かぶ月
「私たちは、親に見捨てられた者同士なの。たくさんの苦しみの中で、お互いだけを支えに生きてきた」

「………」

「私たちは、私たちを蔑んだ人たちを見返したかった。反骨精神っていうのかしら。何もかもに負けたくなかった。何かもわからないものに、勝ちたかったの」

「………」

「だからね、ふたり、それぞれの場所で、それぞれの方法で、私たちは、のし上がってきたの。それで幸せになれると思ってたから」


その顔に、わずかに影が落ちた。

透子の笑みが自嘲に変わる。


それでも、透子はうつむかせようとしていた顔を上げ、



「この街では別々に生きてたけど、毎年、7月7日だけは、何があっても会うことを決めてた。私たちの誕生日であり、出会った日でもある。大切な日よ」

「………」

「『Milky Way』は、直訳すると『天の川』でしょう?」

「あ……」

「光希がそれを会社名にしたって聞いた時には笑っちゃったけど。織姫と彦星のような私たちにはぴったりだと思ったわ」

「……知らなかった」


シンは気の抜けたような顔だった。



「『promise』は『約束』。絶対に夢を叶えようっていう、私たちの誓い」

「………」

「『cavalier』はね、名詞では『騎馬武者』や『礼儀正しい紳士』という意味になるけれど、本当は、形容詞としての『騎士気取りの』という意味が正しい由来よ」

「………」

「皮肉っぽくていいでしょう? 光希らしい単語だと思って、私がつけたの。だって、今の光希は、昔と違って、いい人ぶってるようにしか見えないんだもの」


あの人が、ただ一心に愛している人。

ずっとこの人と共にいた、あの人。


どうしてだかわからないけれど、シンは胸の奥が熱くなった。



「きっと、光希さんにとって、あなたの存在は救いだったと思います」

「そうだといいけど」

「そうですよ。絶対に」
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