水面に浮かぶ月
光希のことについて、シンは、今も、知らないことの方が多いと思う。

けれど、どうしてだか、断言できる。



「光希さんのすべては、あなたで構成されてる」


シンの言葉に、透子は困ったように、少し照れくさそうな笑みを返した。

透子は改めてシンに目を移す。



「ねぇ、あなたの話を聞かせて? シンくん」

「俺ですか?」


シンはちょっと驚いて、



「俺は、親父が仕事もせずに飲んだくれて暴れるような人間で。最後は借金だけ残して死んで。母はそのために働き詰めで体を壊して。だから、俺が働くしかなくて」

「………」

「光希さんに拾ってもらわなきゃ、俺は今頃、どうなってたかわからない。光希さんには感謝しかないです」


そこまで言ったシンは、「なのに」と、唇を噛み締める。

喉の奥に言葉が引っ掛かるが、それでも無理して吐き出した。



「なのに、俺は、そんな光希さんを裏切ってしまった。母がまた入院したからというのは、結局のところ、言い訳でしかなくて、俺は単に、金に転んだだけの、最低なやつなんです」


笑おうとしたのに、顔が引き攣る。



「優也が何かするつもりなんだろうとは、直感で思いました。でも、俺は、握らされた札束に目がくらんだ」


最初は、確かに迷った。


でも、『cavalier』に石が投げ込まれたあの日。

岡嶋組と――内藤と共謀した優也の、無言の圧力を感じ、シンは怖くなって逃げた。



「結果、こうですよ」


シンが逃げ出したことで、計画は優也の思う通りに進むこととなってしまったのだ。
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