水面に浮かぶ月
「俺は光希さんのために何もできなかった」


嗚咽混じりに言ったシン。

透子はシンの涙を指の腹で拭いながら、



「ありがとう。その気持ちだけでいい。光希の傍に、あなたみたいな優しい子がいてくれてよかった。光希があなたを選んだ理由がよくわかったわ」


シンは顎先だけで首を振る。

そして、自らの服の袖で乱暴に涙を拭き、



「優しいのはあなたの方です、透子さん。あなたと、光希さんの方だ」


この人が、わざわざ俺に電話をして、会いに来た理由。

それはきっと、俺が感じているであろう罪悪感を払拭させたかったから。


今いないあの人の代わりに。



「自分たちだけの罪にしないでください。何もかもを、自分たちだけで抱えようとしないでください」


声を震わせながら、でもシンははっきりと言った。

透子は少し驚いたように目を丸くしたが、次にはまた困ったように肩をすくめる。



「でも、私たちのしたことは、罪よ。そして、光希はそれをひとりで背負うことを決めた。けど、私と光希はふたりでひとりだから」


光希は任意同行の後、岡嶋組の犯した過去の犯罪をすべて告白した。

けれど、それは、自らの罪の告白でもある。


光希は自分を犠牲にし、それと引き換えに、岡嶋組を潰してやる覚悟なのだ。


逮捕状の出た光希は、そのまま逮捕された。

どんな罪状が言い渡され、どれだけの拘留があるのかは、まだわからない。



「いつ戻ってくるかもわからないのに、あなたはひとりであの人を待ち続けるつもりですか」


シンの問いに、透子は笑いながら、それが当然とでも言いたげにうなづく。



「だって、光希には私しかいないし、私にも光希しかいないんだもの」
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