水面に浮かぶ月
「で? どうなんだ、売上の方は」

「初動としては順調といったところかな」

「へぇ。それは、それは。景気のいいことで」


新規のバーである『cavalier』には、徐々に客が付き始めている。

ボーイズクラブ『promise』は、デートクラブのようなもので、光希のホスト時代の客を中心に、リピーターも増えてきた。


もちろん、そのどちらにも、光希が厳選した男たちが、ボーイとして惜しみない努力を重ねているからでもあるのだが。



「女の扱いはお手の物って感じだなぁ。羨ましい限りだぜ」

「嫌味を言いに来たなら、帰れよ、リョウ。俺だって暇じゃないんだ」


光希はあしらうように煙草を咥えたのだけれど。



「そう言うだろうと思って、今日はおもしれぇネタを仕入れてきてやったぜ」

「ネタってどんな?」

「岡嶋組の最近の動向とか」


リョウは、ポケットから取り出した紙切れを、わざと光希の顔の前でひらひらとさせた。

光希がそれを掴もうとすると、リョウはひょいと手を交わし、



「その代わり、お前の持ってるネタも出せや」


抜け目がない男だ。

光希は小さく舌打ちし、



「何を聞きたい?」

「『龍神連合』のことだ。あいつら、代替わりして、急に大人しくなりやがった。それがどうしてなのか教えろ」


裏社会というのは、実に難しいバランスによって成り立ち、均衡が保たれている。

だからこそ、自分の欲しい情報があるからといって、そう簡単には口を割っていいわけではない。


光希は少しの間を置き、



「5代目ヘッドは、おもしろいことがなきゃ動かないってだけさ。気まぐれなやつだからな」

「本当にそれだけか?」
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