水面に浮かぶ月
「フラワーショップかぁ」
想像したら、ちょっと笑えた。
透子は光希からの手紙を丁寧に折り畳み、引き出しにしまった。
代わりに、そこから新しい便せんを取り出す。
「えーっと。光希へ。元気そうで何よりです。って、変? うーん。誕生日おめでとう? 違うかな」
一行、埋めただけで、くしゃくしゃにした紙をゴミ箱に投げ入れた。
透子が返事に悪戦苦闘する日々は、しばらく続きそうだ。
しかし、不慣れなそれが逆におもしろいから、今はそれをよしとしておく。
やることも、やらなければならないことも、まだ山ほど残っていて。
きっと、それをひとつひとつ片付けて行くうちに、気付いたら時が経ってると思う。
光希がいつ戻ってくるかはわからないけれど、でも、忙しくしていたらあっという間のはずだ。
透子はひとまず手紙の返事を諦めて、伸びをして窓を開けた。
ぽっかり浮かぶ月。
空には雲ひとつない。
月は、あの頃から、今でもずっと、ふたりの行く末を照らしてくれているのだと、透子はその時やっと気が付いた。
END