水面に浮かぶ月


「フラワーショップかぁ」


想像したら、ちょっと笑えた。


透子は光希からの手紙を丁寧に折り畳み、引き出しにしまった。

代わりに、そこから新しい便せんを取り出す。



「えーっと。光希へ。元気そうで何よりです。って、変? うーん。誕生日おめでとう? 違うかな」


一行、埋めただけで、くしゃくしゃにした紙をゴミ箱に投げ入れた。


透子が返事に悪戦苦闘する日々は、しばらく続きそうだ。

しかし、不慣れなそれが逆におもしろいから、今はそれをよしとしておく。




やることも、やらなければならないことも、まだ山ほど残っていて。

きっと、それをひとつひとつ片付けて行くうちに、気付いたら時が経ってると思う。


光希がいつ戻ってくるかはわからないけれど、でも、忙しくしていたらあっという間のはずだ。




透子はひとまず手紙の返事を諦めて、伸びをして窓を開けた。






ぽっかり浮かぶ月。

空には雲ひとつない。


月は、あの頃から、今でもずっと、ふたりの行く末を照らしてくれているのだと、透子はその時やっと気が付いた。









END

< 186 / 186 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:21

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

花吹雪~夜蝶恋愛録~

総文字数/59,825

恋愛(純愛)113ページ

表紙を見る
【短編】澱(おり)

総文字数/21,912

恋愛(純愛)44ページ

表紙を見る
きみと秘密を作る夜

総文字数/136,593

恋愛(純愛)272ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop