水面に浮かぶ月
「ここは、俺たちの、今日という日に一番ふさわしい場所だ」

「そうね」


透子は悦に浸ったような顔。

光希はそんな透子の横顔を一瞥し、



「透子は、俺よりこの夜景に夢中みたいだね」

「あら、妬いてるの?」

「そりゃあそうでしょ。俺は、こんなに透子を想ってるっていうのに」


わざとらしく肩をすくめる光希。

透子は笑った。



「でも、私の心の中にいるのは、あの日からずっと、光希だけよ」


うなづく光希。

光希は透子の腰を引き、



「さぁ、こちらへ、お姫様。ケーキとシャンパンを用意してありますよ」


執事のような振る舞いで透子を椅子に座らせ、光希は手慣れた様子でシャンパンの栓を抜いた。

ふたつのグラスに注がれる、淡い金色。


光希も向かいの席に着き、ふたり、グラスを持ち上げ、乾杯した。



「ハッピーバースデー、透子」

「ハッピーバースデー、光希」


2010年7月7日。

透子と光希の、ハタチの誕生日。


フルーツをふんだんに使ったケーキの上に置かれた板チョコには、『T&M』と書かれている。



「俺たちは、共に、殺されかけた。でも、だからこそ、出会えたんだ。あの日、あの場所で」

「同じ日に生まれた私たちは、運命に導かれた」

「そんな俺たちも、今日でやっとハタチだ」
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