水面に浮かぶ月
光希は愛車の白いベンツに乗り込んだ。
車を走らせ、駅裏の高架下に向かう。
約束の場所で待っていると、少しして、助手席側の窓ガラスがノックされた。
乗れよと光希が顎を動かすと、「遅れてごめんね」と言いながら、男が乗り込んできた。
光希はそれを一瞥し、車を走らせる。
「いやぁ、やーっぱベンツの乗り心地は最高だねぇ、光希さん。俺も欲しいなぁ、この車」
ヨシヒサは、ガムを噛みながら、シートに深々と腰掛ける。
『龍神連合』の5代目ヘッド。
光希にとっては、なついている駒のひとりだ。
「この前はありがとう、ヨシヒサ」
「この前って何だっけ? あ、レイプのやつ? だったら、礼には及ばないよ。俺も久しぶりに楽しかったから。今でもあれは、思い出しただけでぞくぞくするよ」
「ならいいけど」
「あんたはいつも俺におもしろいゲームを提供してくれる。だから俺は飽きることがない。感謝するのはこっちだよ」
ヨシヒサは、金持ちの道楽息子で、好き勝手に生きる無法者の不良だ。
キレたら手に負えないところもあるが、餌を与えて上手く使えば、これ以上、便利なやつはいない。
ヨシヒサのおかげで、光希は自らの手を汚さずとも、思い通りに事を運ぶことができるのだから。
「で? そんなことを言うために、わざわざ俺をドライブに誘ったの?」
「いや、本題はリョウのことだ」
「……リョウ?」
「街で荒稼ぎしてるプッシャーだよ。知ってるだろ?」
「あぁ、あの、怖ーいクスリ売りか」
だからって、ヨシヒサは、のん気にガムを膨らませる。
「そいつが、何?」
「気をつけておけよ。お前らのことを探ってる」
「マジで? 超うぜぇんだけど」