水面に浮かぶ月
午前4時。
光希は『cavalier』の外階段を伝い、3階に上がった。
2階は『promise』のフロア。
3階が『Milky Way』のフロアで、奥の部屋には光希のデスクがある。
光希が奥の部屋のドアを開けると、待ち構えていた優也とシンが、同時に「お疲れさまです」と頭を下げた。
「お疲れ。ふたりとも、座りなよ」
光希の言葉で優也とシンはソファに浅く腰かけた。
光希は、デスクに置かれた売上日報に目を落とす。
「今日は平日だったし、天気も悪かったから、『cavalier』の売上は、まぁ、これで問題ないだろう」
優也は「ありがとうございます」と言った。
「でも、『promise』はダメだな。特に今週に入ってからの売上は、話にならない。きちんと客を満足させてるの?」
シンは「すいません」と唇を噛み締めた。
『cavalier』は優也に、『promise』はシンに任せており、1日の終わりには、必ず毎日こうやって、ミーティングをしている。
光希は売上日報をデスクに置き、改めてふたりを見やった。
「俺はね、ふたりに期待してるんだよ。優也にしても、シンにしても、引き抜いたことに後悔はしていない。お前たちじゃなきゃダメだと思ったから選んだんだ」
「はい」
「だからね、現状に甘んじたりしないで、俺を追い越すくらいになってほしいと思ってる。努力の結果は、必ず数字に表れるんだから」
光希は決して、ふたりに対して怒鳴るような真似はしない。
厳しくも優しいことを言いながら、心に語りかけるようにして、向上心を植え付けるのだ。
「俺、頑張ります。絶対に、光希さんを失望させるようなことはしません」
シンは拳を作り、語気を強めて言った。