水面に浮かぶ月
冷たい雨と
透子は『club S』で、客に色目を使い、虎視眈々と売り上げを伸ばしていく一方で、妬まれたりしないように、他のキャストたちにも細心の配慮を怠らないようにした。
女の足を引っ張るのは、いつだって、同じ女だからだ。
「マナミさん、髪型変えました? すごく似合ってます」
「ほんと?」
「えぇ。私も真似しちゃおうかしら」
「あ、じゃあ、紹介しようか? 私の通ってる美容室。店長が担当してくれてるんだけど」
マナミは完全に透子を信用しきっている。
それどころか、本気で透子を妹のように思っているらしい。
馬鹿な女。
「ありがとうございます、マナミさん」
透子は内心で吐き捨てながら、ほほ笑んで見せた。
客も、この店の経営戦略も、キャストたちの所作のひとつひとつに至るまで、すべてを学び、盗み取ってやる。
ゆっくりと、時間を掛けて。
強引なやり方は、時として、こちらの身まで滅ぼされてしまう懸念もあるから。
透子は、休みの日は、エステに、ヨガにと、今まで以上に、徹底的に自分磨きに費やしている。
高価な宝飾品を購入し、着飾ることも忘れない。
もちろん、器だけではなく、中身も伴わせるため、経済誌を読み漁り、ビジネス学の勉強もしている。
客たちの審美眼に敵う人間にならなくてはいけないから。
すべての努力は未来のため。