水面に浮かぶ月


そんな中での出来事だった。



【不在着信:13件】

履歴を確認してみると、すべてが【非通知着信】と表示されていた。


透子は唇を噛み締め、携帯をバッグに戻した。



「一体、誰がこんなことを……」


2週間ほど前から、非通知での無言電話が掛かってくるようになった。

だから、非通知を拒否する設定にしたのだが、その所為なのか、相手はエスカレートし、今では小1時間ほどの間に10件を超す着信があることも珍しくはなくなった。


嫌がらせをされているのか、それともストーカーか何かなのか。


思い当たる節はいくつかあるものの、だからってそのどれも、決定的ではないため、相手を特定するまでには及ばない。

姿の見えない敵とは、実に厄介だ。



考えれば考えるほど、疑心暗鬼に陥り、最近では、いつも誰かに見られている気がしてくる始末。



「どうしたの? 透子ちゃん」


はっとして顔を向けてみたら、不思議そうに首を傾けるマナミに見つめられ、透子は慌てて笑顔を作った。



「何でもありません」

「そう? ならいいけど。それより、ほら、早く行かなきゃ間に合わなくなるわよ、美容室」

「そうですね」


辺りをうかがいながら歩いてみるも、怪しい人間はいない。

だが、逆に、すべての人間が怪しくも思えてきて、余計、相手を考察できなくなる。


透子は焦っていた。


相手がストーカーなら、そのうち姿を現すだろうが、透子を精神的に苦しめたいだけの人間の犯行ならば、ずっとこのままという可能性もある。

それどころか、透子を恨んでいる本人が直接仕掛けているわけではなく、協力者がやっているとするならば、絶対に特定はできないだろうから。

< 25 / 186 >

この作品をシェア

pagetop