水面に浮かぶ月
そんな中での出来事だった。
【不在着信:13件】
履歴を確認してみると、すべてが【非通知着信】と表示されていた。
透子は唇を噛み締め、携帯をバッグに戻した。
「一体、誰がこんなことを……」
2週間ほど前から、非通知での無言電話が掛かってくるようになった。
だから、非通知を拒否する設定にしたのだが、その所為なのか、相手はエスカレートし、今では小1時間ほどの間に10件を超す着信があることも珍しくはなくなった。
嫌がらせをされているのか、それともストーカーか何かなのか。
思い当たる節はいくつかあるものの、だからってそのどれも、決定的ではないため、相手を特定するまでには及ばない。
姿の見えない敵とは、実に厄介だ。
考えれば考えるほど、疑心暗鬼に陥り、最近では、いつも誰かに見られている気がしてくる始末。
「どうしたの? 透子ちゃん」
はっとして顔を向けてみたら、不思議そうに首を傾けるマナミに見つめられ、透子は慌てて笑顔を作った。
「何でもありません」
「そう? ならいいけど。それより、ほら、早く行かなきゃ間に合わなくなるわよ、美容室」
「そうですね」
辺りをうかがいながら歩いてみるも、怪しい人間はいない。
だが、逆に、すべての人間が怪しくも思えてきて、余計、相手を考察できなくなる。
透子は焦っていた。
相手がストーカーなら、そのうち姿を現すだろうが、透子を精神的に苦しめたいだけの人間の犯行ならば、ずっとこのままという可能性もある。
それどころか、透子を恨んでいる本人が直接仕掛けているわけではなく、協力者がやっているとするならば、絶対に特定はできないだろうから。