水面に浮かぶ月
美容室から帰宅後、マンションの郵便ポストを探った。
今朝、透子は、試しに携帯の請求書をわざと残しておいたのだが、それがなくなっていた。
やっぱり、だ。
相手は決して姿を現さず、でも透子を監視している。
透子はポストの扉を閉め、足早に自室に戻り、鍵を掛けて部屋に閉じこもった。
カーテンの隙間からマンションの下を確認するも、人っ子ひとりいやしない。
男か女かさえもわからないなんて。
警察に相談したところで、付近の見まわりを強化してくれる程度だろうし、それどころか、下手に誰かに知られて悪い噂が広まれば、客は離れてしまう。
せめて、犯人の目的だけでもわかればいいのだが。
光希には、なるべくなら、知られないようにしたかった。
麗美の一件で頼ったばかりだし、何より光希は今、新しいビジネスに手を出したばかりなので、こんなことで煩わせたくはなかったのだ。
「……待つのも策、か」
やはりここは、焦って動くよりも、相手の出方をうかがった方がいいのかもしれない。
私が平気な顔をしていれば、多少なりとも向こうはイライラするはずだ。
そうしたら、何か新たに仕掛けてくると、透子は考えた。
外は雨が降り始めた。
携帯には、また非通知着信があった。
透子は手首のブレスレットに触れ、「私は大丈夫」と、念じるように呟いた。
この程度のことで動じてどうするんだと、自分で自分に喝を入れる。