水面に浮かぶ月
互いに7歳の誕生日だった、13年前の7月7日。

母が男と逃げるために捨てられた透子と、母の再婚相手に虐待されていた光希は、児童養護施設『愛育園』で、運命的に出会った。


心に同じ傷を負った、同じ誕生日のふたりは、その日から、片時も離れることなく一緒にいた。


他の誰も信じることなく、互いの存在だけを求めた。

あの日から、透子と光希は、ふたりでひとりだったのだ。



「辛くない日なんてなかった。苦しすぎた。たくさんの辛酸を舐めた。そんな中で、俺には透子だけが支えだった」

「私もよ。光希がいてくれたから、今、生きていられるの。あの約束があったから」


幼いふたりは、誓い合ったのだ。



『もう二度と、親に――大人なんかに、人生を踏みにじられたくなんてない』

『だから、俺たちは、金を手にし、世界を支配してやるんだ』

『ふたりでならやれる。ふたりにしかできない』


中学卒業と同時に、ふたりは地元を離れ、この街にやってきた。



互いに夜の世界で生きることを選び、透子は今や、この街で唯一無二の頂点に輝くキャバクラ『JEWEL』の、不動のナンバーワンとなった。

光希はホストクラブ『Kingdom』の伝説とまで呼ばれるようになったが、その地位を捨て、得た金で『Milky Way』という会社を設立し、バー『cavalier』とボーイズクラブ『promise』をオープンさせた。


会うのは、毎年の誕生日以外は必要最低限だけと決め、徹底して、この街では他人として過ごした。


下手に関わりを持てば、そこから計画がほころんでしまわないとも限らないから。

そうまでして、ふたりはこの日を迎えたのだ。



「すべては順調だ」

「私たちがもっともっと上に行くために」

「こんな程度じゃあ、全然満足なんてできない」


光希はグラスを傾けた。



「そうだ。忘れないうちに渡しておくよ」
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