水面に浮かぶ月
「私は絶対にあの男を許さない」


低く吐く透子。


光希は煙草を咥えた。

光希が透子の前で煙草を吸うのは、よっぽどイライラしている時だけだ。



「やっぱり俺がやるよ。場合によっては、殺してもいい」


光希は長く細く、煙を吐き出す。



「透子が手を下す必要はない。透子にそんな汚いことはさせられない」

「でも!」

「聞いてよ、透子」


光希はたしなめるように言いながら、透子を真っ直ぐに見た。

透子は目を逸らして唇を噛み締める。



「その男に何かあったとして、もしそれが警察沙汰になった場合、真っ先に疑われるのは誰? 脅されていた透子だろう?」

「……それ、は……」

「俺たちは、何のために別々に生きている? こういう時のためなんじゃないのか?」

「………」

「透子が俺に話した時点で、これはもう、俺たちふたりの問題だ。透子だけが抱えることじゃない」

「光希……」


煙草を消した光希は、透子の腕を引く。

抱き寄せられた透子は、



「ごめんね、光希」


蚊の鳴くような声で言った。



「心配しなくていい。俺と透子は、ふたりでひとりなんだから」


雨音がけぶる。

透子と光希は、目を合わせ、強くうなづき合った。

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