水面に浮かぶ月
安いラブホテルの一室は、下世話なピンクライトに照らされている。
約束の1時を少し過ぎた頃、コンコン、と、ドアをノックする音が聞こえた。
「俺だ。開けろ」
透子はゆっくりとドアを開けた。
1週間前と同じキャップを目深にかぶった、男ひとり。
まわりに誰もいないのを確認してドアを閉める。
「金は?」
「あそこのバッグの中に」
透子はベッドの上に置いてあるバッグを指差す。
男は真っ直ぐにそこに向かった。
男が身をかがめ、ベッドに置いてあるバッグを手にした瞬間、
「死ね」
ガッ、と、物陰に隠れていた光希が、男の背中を鉄パイプで殴りつけた。
男は「がはっ」とその場に倒れ込む。
男はこちらを振り仰ぎ、その拍子にかぶっていたキャップが脱げた。
「……な、何でっ、騙し、騙したっ……」
体を震わせる男。
光希は呼吸すら乱さず、冷酷に男を見下し、
「思い出した。お前、B棟にいた田安だろう? 確か、田安 洋平」
「なっ」
「あの時は、ずいぶんと世話になったなぁ。そうならそうと言ってくれればいいのに。今、礼をしてやるよ」
光希は薄く笑い、また鉄パイプを振り下ろした。
ガッ、という鈍い音と共に、男は血を吐き、その場に倒れた。
透子は目を逸らしたくなったが、でもそれを見守った。