水面に浮かぶ月
男は何か言いたげに口を動かすが、言葉にはなっていない。

光希は目を細めてそれを読み取り、



「どうして俺がいるのかって? これから死ぬお前にいちいち教えてやる義理はないよ」

「……ひゃっ、ひゃめ……」

「何? やめろって? それはできない相談だなぁ」


光希は男の顔面を蹴り上げた。

鼻血が飛び散る。



「お前はあの頃、俺の透子を汚い目で見てた。俺や職員がいなきゃ、何をしてたか」

「………」

「それなのに、今また現れて、今度は金の無心だ。これは万死に値する。よって、何をされてもお前が文句を言う権利はない」


ガッ、ガッ、と、鉄パイプを振り下ろす光希。

男はぐったりとする。



「……死んだの?」

「いや、まだ生きてる。気を失っただけだ。それに、今死んでもらったら困るしな」


息を吐いた光希は、透子に目をやり、



「逃げるんだ、透子」

「でも……」

「そういう約束だったはずだろう?」


このラブホテルの監視カメラはダミーなので、ここでのことは決して記録には残らない。

とはいえ、もしこの男が死んだ場合、やはり一番に疑われるのは透子なので、その時間のアリバイを作っておく必要がある。



「後は俺に任せればいいから。心配しなくていい」

「光希……」

「終わったら電話する」


光希はこの惨状の中、透子に笑顔を向けた。

透子は呼吸を整え、「わかった」と言って、部屋を出た。

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