水面に浮かぶ月
青白い哀愁
重低音の響く、テクノ系のクラブの壁に寄り掛かる光希。
馬鹿みたいに踊り狂うやつらを横目に、光希はしらけた気分になった。
どいつもこいつもクスリをやってる目をしている。
「うおっ、光希?!」
顔を向けてみたら、リョウが近付いてくる。
「珍しいな。お前がこんなところにいるなんて」
「別に。ちょっと時間が空いたから寄っただけだよ」
と、いうのは建前で、本当はリョウの仕事をうかがうためだ。
リョウはこの街を根城にクスリをさばいている。
噂では、相当、荒稼ぎをしているらしい。
「それより、リョウの方こそ景気がいいみたいだね」
「あぁ、まぁな」
自信ありげにぺろりと唇を舐めるリョウ。
「最初はタダで配るんだ。したら、ハマったやつらが次から次へと溢れて、俺の前に長蛇の列さ。後は額を吊り上げたってクスリ欲しさに客はいくらでも群がってくる、ってわけよ」
「相変わらず、ギリギリな方法でさばくね」
「サツなんか怖くねぇよ。岡嶋組だってそうだ。俺はこの街を支配する男だぜ?」
調子に乗りやがって。
この街を支配するのはお前じゃなくて俺だ。
光希は喉元まで出掛かった言葉をぐっと飲み込み、笑顔を作って「そう」とだけ返した。
今はいいとしても、後々、リョウは邪魔な存在になるだろう。
だが、その時までは、どんなに腹が立ったとしても、こちらの利益のために、泳がせておくことにする。
「じゃあ、俺はもう行くよ」
「あぁ。また店に顔出してやっから、その時は頼むぜ、光希」
互いに別々の方に向かって歩き出した。