水面に浮かぶ月
そう言って、光希が取り出したのは、長方形のジュエリーボックスだった。

透子はわくわくしながら「何?」と聞く。


光希は嬉しそうに「開けてみな」と言った。


箱を開けると、ブレスレットが入っていた。

ルビーの石のついた『T』というチャームがついている、それ。



「嬉しい。でも、今回はお揃いじゃないのね」


ふたりは、香水や、時計や、持ち物のひとつひとつを、誕生日の度に同じものにしてきた。

だが、このブレスレットはひとつしかない。



「俺のはこっち」


光希は右手を見せた。


その人差し指には、太い『M』の字の指輪が。

もちろんそこにもルビーの石が嵌め込まれている。



「さすがに同じアクセサリーはまずいだろう? でも、これなら、秘密の関係にはぴったりだと思ってね」

「素敵」


透子はすぐにブレスレットを左手首に嵌めた。


チャームが揺れる。

その度に、ルビーが煌めく。



「ルビーは、7月の――私たちの、誕生石ね」

「そう。でも、それだけじゃない。ルビーは、インドでは宝石の王と言われているし、不滅の炎ともたとえられている」

「へぇ」

「愛を願う石でもあるし、勇気と自信を高める効果もあるらしい。他にも、あらゆる災難から身を守ってくれるとか、繁栄や富をもたらしてくれるとか」

「すごいわね。ますます私たちにぴったりだわ」


透子は悦に浸るように目を細めた。

光希は、そんな透子を見つめて笑う。



「気に入ってもらえてよかったよ」

「ありがとう、光希」


ふたりは最高の夜に、もう一度、乾杯をした。

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