水面に浮かぶ月
その日から1週間ほど下調べに時間を費やしたが、エリート銀行員とは実に忙しいらしく、日高の帰宅はいつも日付をまたいでいた。
だが、それはそれで好都合だ。
決行は次の月曜の夜と決めた。
光希とヨシヒサ、そして『龍神連合』の若いのがふたり。
黒づくめに身を包み、4人は銀行近くの通りに停めたワンボックスの中で、日高を待ち続けた。
午前1時だった。
「光希さん。あいつじゃね?」
ヨシヒサが指差す先を確認し、光希はうなづく。
それが合図。
走らせた車を強引に日高の前に停め、一斉にドアを開けて日高を車に押し込めた。
「な、何なんだ、お前たちは!」
フラットにしたワンボックスの後部座席でわめく日高。
出荷される前の豚もこうして震えているのだろうかと、光希は日高を見ながら思う。
「騒いだら刺すぞ」
ナイフを手に、ヨシヒサは脅しを入れる。
傷害や恐喝などが日常だったヨシヒサにしてみれば、慣れたものなのだろう。
日高は生唾を飲み込み、でも気丈に言った。
「何が目的だ! か、金か? 金が欲しいのか?!」
「うるっせぇなぁ」
ガッ、と、日高の顔面にヨシヒサの肘が入った。
「ぎゃあ!」と、悲鳴を上げた日高の鼻血が飛んだ。
「次に喋ったらマジで刺すぞ、てめぇ」
日高のことはヨシヒサに任せておけばいい。
光希は無視して、ペンライトを手に日高のビジネスバッグを漁る。