水面に浮かぶ月
それでも、内藤は、光希の仕事ぶりに満足したらしい。

若衆に「おい」と声を掛ける。



「つまんねぇ埃だったら、難癖つけてお前の息の根を止めてやろうと思ってたが」


若衆は、光希の前に封のされた札束をふたつ置いた。



「200万ある。今回の報酬だ」


ひとり頭、50万か。

光希は舌打ちしそうになったが、「ありがとうございます」と、それを受け取った。


内藤は怪訝に眉根を寄せ、



「まったく。ついこの前までホストしてたようなやつだとは思えねぇなぁ、光希ちゃんよぉ」

「どういう意味ですか?」

「こんな場所にきて、こいつらに囲まれてても、動じることもねぇんだから。少しはビビってもらわなきゃ、俺も型なしだぜ」


濁った瞳に見据えられる。

若衆も、光希を睨むような目をしている。



「お前のその綺麗な顔を、いつか歪めてやりてぇよ」


あまり調子に乗るなよと、内藤は目で訴えてくる。

ナメんなよ、と。


光希は鼻で笑ってやりたくなったが、



「嫌だなぁ。勘弁してくださいよ、内藤さん」


適当に受け流しておく。



「じゃあ、俺、帰りますね。もう用も済んだことですし」


席を立ち、「失礼します」と内藤に頭を下げ、光希はきびすを返した。


道を開ける若衆。

おずおずとついてくることしかできずにいるヨシヒサたちを引き連れ、光希は組事務所を後にした。



珍しく、月のない夜だった。

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