水面に浮かぶ月


街の夜景を足元に、シャンパンとケーキを思う存分堪能したふたりは、ベッドルームに移動した。



光希は何度も唇を奪いながら、透子をキングサイズはあろうかというベッドに倒す。


透子の首筋にしたキスを、徐々に下へと移行させる光希。

酒の所為で火照っていた透子の肌は、羞恥の色を足し、いっそう、赤みを増した。



「透子は本当に綺麗だな。しばらく会わないうちに、また一段と魅惑的になった」

「光希だって。私、びっくりしちゃったんだから。悪魔みたいだと思ったわ」

「……悪魔?」

「悪魔は醜い化け物みたいに描かれることが多いけど、そうじゃない。悪魔はね、人間を誘惑するために、本当は浮世離れした妖しくも美しい姿をしてるんだって」


光希は笑った。



「だったらそれは、透子のことだ」


光希の指先が、透子の柔肌を滑る。

透子の形をなぞりながら、光希は透子を真っ直ぐに見つめた。



「俺は13年前のあの日、透子に誘惑されたんだ。絶対に手放したくないと思った。俺だけの透子だ、って」


光希はシャツを脱ぎ捨てた。


無駄な肉などなく、引き締まった細すぎる体躯。

でも、よく見ると、そこには無数の古い小傷がある。



「今まで本当に大変だった。でも、これからの方がもっと苦労するかもしれない」

「うん」

「だけど、その先には、必ず俺たちの幸せが待ってるはずだ」

「そうね」

「幸せは、待っててもやって来るものじゃない。だから、俺たちは、自分でそれを掴むんだ。ふたりで、手にしてやる」

「光希と私なら、大丈夫」


互いに生まれたままの姿になった。

愛も、孤独も、不安も、すべてをふたりで分かち合うために。
< 5 / 186 >

この作品をシェア

pagetop