水面に浮かぶ月
街の夜景を足元に、シャンパンとケーキを思う存分堪能したふたりは、ベッドルームに移動した。
光希は何度も唇を奪いながら、透子をキングサイズはあろうかというベッドに倒す。
透子の首筋にしたキスを、徐々に下へと移行させる光希。
酒の所為で火照っていた透子の肌は、羞恥の色を足し、いっそう、赤みを増した。
「透子は本当に綺麗だな。しばらく会わないうちに、また一段と魅惑的になった」
「光希だって。私、びっくりしちゃったんだから。悪魔みたいだと思ったわ」
「……悪魔?」
「悪魔は醜い化け物みたいに描かれることが多いけど、そうじゃない。悪魔はね、人間を誘惑するために、本当は浮世離れした妖しくも美しい姿をしてるんだって」
光希は笑った。
「だったらそれは、透子のことだ」
光希の指先が、透子の柔肌を滑る。
透子の形をなぞりながら、光希は透子を真っ直ぐに見つめた。
「俺は13年前のあの日、透子に誘惑されたんだ。絶対に手放したくないと思った。俺だけの透子だ、って」
光希はシャツを脱ぎ捨てた。
無駄な肉などなく、引き締まった細すぎる体躯。
でも、よく見ると、そこには無数の古い小傷がある。
「今まで本当に大変だった。でも、これからの方がもっと苦労するかもしれない」
「うん」
「だけど、その先には、必ず俺たちの幸せが待ってるはずだ」
「そうね」
「幸せは、待っててもやって来るものじゃない。だから、俺たちは、自分でそれを掴むんだ。ふたりで、手にしてやる」
「光希と私なら、大丈夫」
互いに生まれたままの姿になった。
愛も、孤独も、不安も、すべてをふたりで分かち合うために。