水面に浮かぶ月
入念に準備を終えた透子は、鏡の前で気合いを入れ直す。
と、その時、玄関先からチャイムが鳴った。
「お届けものでーす」
ドアを開けて、驚いた。
両手で抱えなればならないほど大きな、花束が。
しかも、すべては白のバラだ。
【LOVE. M to T】
添えられていたメッセージカードを見て取り、透子は自然と笑みがこぼれた。
バラの甘美な香りに包まれながら、幸福を感じる。
光希から、時々こうして、脈絡なくバラの花が届くことがある。
その度に、透子は、ひとりではないのだと思うことができるのだ。
透子は携帯を取り出し、光希にコールした。
「どうしたの?」
「お花、届いたわ。ありがとう。すごく嬉しかった」
「そう。よかった」
光希は、なんてことはないといった返事をする。
「透子が『club S』でナンバーワンになったら、豪華なお祝いをしよう。その時は、もっと大きな花束を用意しておくよ」
「私、早く夢を叶えるから」
「楽しみにしてる」
電話を切った。
透子はバラを花瓶に生けた。
花瓶ひとつでは収まりきらず、さすがに苦笑してしまったけれど。
花弁に触れ、目を細める。
白いバラの花言葉は、尊敬・純潔・約束を守る・無邪気・恋の吐息・私はあなたにふさわしい・心からの尊敬。
透子は光希を想い、伏し目がちに笑った。